恋情

(1/4)


どうしたって、あなたは私を見てくれないじゃない。
あなたが見ているのはいったい誰なの?


…流魂街の、ある家で。

着飾らせて、化粧をさせて、

「…………」
ゆっくりとこちらに歩み寄っては、かんざしを結い上げた髪に飾られた。

私を眺めて満足気に笑うあなた。

「あァ、ほんま綺麗やなァ。」
「…ありがとうございます。」

これは何度も繰り返されたやり取り。

賞賛するその瞳は私を見ていない。

「ボクの事、どう思っとる?」
「私の一番に愛する方です。」

確認するような口調に、こちらも念を押すかのように返す。
そうすればあなたは安心したように微笑むのだ。

「ありがとうなァ、ボクも好きやで。」

…嬉しい。
でもこれは、他の誰かに向けた言葉。

私はきっと“その方”に似ているだけの赤の他人。

「ありがとうございます。」

でも私はこれでいい。
従順な“その方”になっていれば、偽物でもあなたは私に愛をくれるから。

…お辞儀をすると、銀細工の綺麗なかんざしが灯りを受けて鈍く輝いた。


光の差さない流魂街に、
あなたが来てくれたお陰で
希望を持つ事が出来た。

そう、それだけが希望だったのに。


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